国立西洋美術館「内藤コレクション 写本」を見てきました


国立西洋美術館にて写本の展覧会を見てきました。
素晴らしい展覧会でした!

長年、テンペラ画で写本の模写をしてきたので、とても親しいものたちに会えたような気がしました。

静謐な佇まいの写本ですが、実は昔の人たちの息遣いを肌で感じることができるのです。
ちょっとマニアックかもしれませんが、私なりに感じた見どころをご紹介します。

①皮を感じる
今でこそ額縁に納められた一枚の絵画のようですが、かつては本の中の1ページでした。
この頃の羊皮紙はとても薄く、裏にも絵や文字が書かれているのがよくわかります。
縁がよれて変色していたり、経年劣化でインクの部分が穴になって抜け落ちていたり。
印刷物ではわかりにくい臨場感です。

②インクの濃淡を感じる
文字の書き始めは濃く、やがて薄くなり、また付け直して濃くなります。
活版印刷とは違う手書きの跡です。
当たり前のことですが、何百年も前の書き手の動きを想像できてワクワクします。

③金の輝きを感じる
会場では、少し腰をかがめて下から覗き込んでみてください。
照明が反射して、ページに散りばめられた金が輝きます。
なかには、盛り上がってピカピカに光っている部分もあります。
こういう部分はメノウで丁寧に磨かれたためです。
数百年前から変わらない厳かな輝きを探してみて下さい。

④色の豊かさを感じる
一見、華やかでカラフルに見える装飾写本ですが、実は色数は控えめです。
基本的に15世紀以前のものには赤、青、緑しかありません。
これらに鉛白を加えて色の濃淡を作っています。
(まれにガンボージュの黄色も使われます)
当時の描き手たちの工夫と技量による華やかな表現を堪能して下さい。

⑤かつての役割を感じる
部分的に変色したり、絵の具が擦れて剥がれているものもありました。
大型の楽譜などはみんなで歌いながら何度もめくっていたのでしょうか。
驚くほど小さなページもあります。かつて貴婦人が身に付けていた時祷書だったのかもしれません。
いろんな書体でびっしりと注釈が書き込まれたページを見ると、幾人もの手に渡り、勉強に使われていたことを感じます。

⑥遊び心を感じる
写本には、余白を埋めるためにいろいろな装飾がなされます。
特に文字部分にはユーモアの効いた装飾がみられます。
落書きみたいな横顔やモンスターが書いてあったりと、昔の人もお茶目だったのですね。
穴や汚れを隠すために描いたのかな、と思われる絵もありました。
写本は聖なるものですが、力強い創造力や自由闊達な遊び心にも満ちています。
「美しさ」とはそういうところに宿るのかな、とも思うのです。

写本の世界に足を踏み入れて十数年。
いつの間にか魅入られていたようで、熱く語ってしまいました。
こんな素晴らしいコレクションを築いてくださった内藤先生に感謝です。

日本人にとって写本は特殊なものですが、実はとても親しみやすい世界です。
写本鑑賞の一助になればうれしいです。

(最後にこっそりアドバイス)
信じられないほど小さな描写が目白押しなので、虫眼鏡を持参することをおすすめします

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